漫画家・のりプロ社長にして犬山たまきの生みの親、佃煮のりおさんをお迎えした第10夜・後編。前編のたまきさんと入れ替わりでのご来店で、高校3年での漫画家デビューから犬山たまき誕生秘話、そして5年目に「全部辞めよう」と決めていた夜まで、華やかな肩書の裏の本音が続く。終わるはずだった物語を続けさせたのは、神楽めあの一言だった。
- 高校3年で漫画家デビュー、デビュー作は2014年頃にテレビアニメ化。目標に早々に到達した先で出会ったのがVTuberだった
- にじさんじは落選、エンタムの社長は「何もできないです」と直球。名取さなさんを例に個人勢デビューを勧められた
- 「私といえば男の娘作家」——生み出すなら絶対男の娘、で誕生したのが犬山たまき
- ワンオペ経営で不眠症・脱毛症に。5年目の家族会議で「全部辞めよう」と決めていた
- 「たまきちゃんいないと活動何やっていいかわかんない」——神楽めあの一言が、終わるはずだった物語を続けさせた
- 目標は「VTuber業界の玄関マット」。2年がかりの集大成『わんたま☆らいふ』は、ヒロインに神楽めあを迎えた思い出の一作
"全部辞めよう"とした…隠し続けた女社長の苦悩!? V業界にいま思うこと
閉店後の喫茶Laid-Backで本音を聞く対談トーク、第十夜の後編。前編の犬山たまきさんと入れ替わりでご来店くださったのは、その生みの親にして漫画家・のりプロ社長の佃煮のりおさん。華やかな肩書の裏で、五年目に「全部辞めよう」と決めていた夜の話。
「もう神楽めあのダウンロードコンテンツよ今やってるの」
「自分のファンになってほしいじゃなくて業界の誰かのファンになってほしい」
たまきと入れ替わりで、生みの親がご来店
第10夜は二部構成。前編のゲスト・犬山たまきさんと入れ替わりで閉店後の喫茶Laid-Backに現れたのは、その生みの親——漫画家にしてのりプロ社長の佃煮のりおさんだ。
すいません、なんかたまきがわちゃわちゃお邪魔したみたいで。
いやいや、すごく楽しくいろいろお喋りさせていただきました。ということで、後半のゲストは——佃煮のりお先生です!よろしくお願いします!
はい、佃煮のりおです。いや、れいちゃん、なんかお久しぶりね、本当に。
そうですね。でも、のりおさんとこういう形でしっかりお喋りしたことは、もしかしたらなかったかもしれないですね。
確かに、スタジオにお邪魔したりは結構あったけれども、直接お会いしたのはスタジオでもなかったかもしれないわね。そのうちお茶でも、もしよければ。
ぜひともご一緒いたしましょう。もしよければ、のりお先生が初めてという方もいらっしゃるかもしれないので、自己紹介をお願いしてもいいでしょうか。
はい。私、もともと漫画家をやっておりまして。それを経て犬山たまきのプロデューサーとしてVTuber業界に降り立ち、のりプロというVTuber事務所を作って——今年で芸歴15年目の女社長です。
すごい、いろんな肩書きがあった、本当に。
もう何が本業なのかわからないんだけど。最近は自分でもVTuber活動をやったり、のりプロの事務所の社長としての活動が多いかしら?
「社長」がこのトークに来店するのは、ちょっと初めての感じになるんですけど。いろいろお聞きできればと思います。よろしくお願いいたします!
高校3年デビュー、20歳そこそこでアニメ化
もともとは漫画家さんだったんですよね。
そうそう。漫画家としては高校3年生の時にデビューしてて。デビューが早かったの。芸歴だけ異常に長くて。
高校3年生……! デビューって、できるもんなんですね。
まあ、運が良かっただけなんだけどね。たまたま同人誌とか描いてたら、編集者がスカウトしてくれて、みたいな感じだったんだけど。
一番最初に描いたデビュー作が、2014年とかだったかな、テレビアニメ化していただいて。
すごいですよね……!
ありがたい話でね。テレビアニメ化するのが漫画家としての目標だったから、結構その目標がすぐ叶っちゃったのよね。デビューが18歳で、アニメ化した時がもう20歳か21歳だったから。
早いな……。
そこで結構ゴールしちゃって。「どうしようかな」って思ってる時にVTuberがすごく流行り始めて、業界に参入したっていうのが流れだったかな。なりたいなって思ったのは2017年だったんだけど。
早いですね。
当時って、VTuberのなり方のHow toなんて、検索しても出てこなかったじゃない?
何にもないですね。
そう、何にもないの。キズナアイちゃんを見ても「この子はどうやって動いてるの?」「アニメが喋ってるけど、何?」みたいな状態だったじゃない。
3Dしか、やっぱりなくて。
知識がなかったから、あれが3Dなのかすらよくわからない。動画を見ても「なんだこれ」って。「とりあえずオーディションに応募しないとVTuberになれないのかな」って漠然と思ってたのね。
「何もできないです」——個人勢を選ぶまで
ちょうど、やっとにじさんじのオーディションが始まったぐらいのタイミングで。わかんないから、とりあえずにじさんじに応募してみたのと、もう一個、ミライアカリちゃんが所属してたエンタムっていう事務所が昔あって、そこもオーディションを募集してたから、両方に応募してみたの。
そうだったんですね……! 懐かしい。
そしたら、にじさんじは箸にも棒にも引っかからなくて落ちたんだけど、エンタムさんからは応募してすぐメールが返ってきて。社長さんから「事務所に所属すると、手数料を事務所に納めることになりますよ」と。
ただ私の場合、自分で見た目を作って、自分で中に入って演者もやろうと思ってたから、「じゃあそれって、事務所は何をしてくれるんです?」っていう話になって。しかも私、もともとニコ生をやってたから、視聴者も結構いたんだよね。
なるほど、なるほど。
「エンタムさんって何をしてくれるんです?」って聞いたら、社長さんから——「何もできないです」って言われて。
すごい直球ですね!
「のりお先生に我々がやってあげられることはありません」って。で、「名取さなちゃんって知ってますか。この子は自分で見た目も作って、全部一人でやっていて、個人勢って呼ばれてるんです。のりお先生は多分これに該当すると思うので、個人勢でデビューするのはどうですか」ってアドバイスをくださったの。
すごい……でも、良心的というか。どうにかして事務所に所属させよう、っていう感じではないんですね。
全然そんなこともなくて。その代わり、個人勢としてデビューすることはバックアップするから、と。「Live2Dとか誰にお願いしたらいいかわからないでしょうから、社内にLive2Dの子がいるからうちで作ってあげる。その代わりに業務提携しよう」って。
「業務提携って何をしたらいいんですか」って聞いたら、「うちのタレントが該当しない案件があったら、のりお先生にお渡しするので、ちょっと安くても受けてほしい」って言われて。「Live2D作ってもらうんだから、全然いいですよ」っていう話をして。
確かに。最初はエンタムさんと業務提携だったんですね。
でも業務提携って言っても、契約書も何も交わしてなくて。本当に口約束で、お互いの善意と信頼の上に成り立ってるみたいな。
何もないんですか!? 今考えると不思議だ……。
生み出すなら、絶対男の娘
デビューするときに、佃煮のりお名義でデビューするのか、はたまた息子・娘を生み出すかっていうのは結構悩みまして。もともと私の描いてた、アニメ化した作品が、男の娘がテーマの作品だったんですよ。
なるほど、なるほど……ちょっとわかってきました。
そこでつなげるのよ。私といえば男の娘作家だったから、「VTuberを生み出すなら絶対男の娘だよね」っていうので生まれたのが、犬山たまきだったのよね。
確かに、それだったらのりお先生のリスナーさんも「のりお先生、男の娘好きだもんね」ってなりますよね。そうやって生まれたのか……。活動歴も本当に長いと思うんですけど、やりたいことって、まだ出てきてます?
あー、でもそうね。たまきってデビューして8年目なんだけど、のりプロは7周年なのね。
そっか……。
犬山たまきの活動のみにコミットしたのって、1年しかなくて。
さすがにもうちょっと後だと思ってたけど、1年ぐらいで立ち上げてたんですね、のりプロ。
いつの間にかね、立ち上げてて。新しいこと好きだからね。しかも、たまきの活動の初期って私まだ漫画連載をしていたから。隔週連載で、月に2回雑誌に掲載するっていう。
忙しすぎ……! 結構配信してたイメージだったんですけど。
だから、たまきの活動のみにコミットしたのって半年しかないの。やれてないこと、いっぱいあるから。
じゃあ、ある意味やりたいことはこれから。伸びしろありますね。
やっと事務所もスタッフが揃ってきて、組織として回り始めたので。今までは本当にワンオペで、演者さんのプロデュースからグッズの手配、グッズを売るときのショップ作り、印刷所とのやり取りも全部自分でやって。演者さんの配信も全部見て、「今日こうだったよ」ってみんなに送ってたね。
それを経てたら、今むしろ「そんなに忙しくないよ」って言えるんですね。
「私よく『暇だよ』って言うじゃない。本当に暇なのよ。『死ぬかも』っていう思いをするぐらい働いてた時があったから、それに比べたら暇」。立ち上げ当時は休んだらすなわち死——たまきの数字が落ちたらのりプロが終わる。その重さを、一人で背負っていた。
五年目の家族会議と、恩人の一言
ワンオペ時代の話の先で、れいが一歩踏み込む。誰にも見せてこなかった、限界の話が始まった。
「これはちょっとやばい」っていう、体も心もやばいみたいな時期は、ありましたか?
不眠症になったね、ちゃんと。あと、ちょっと脱毛症になっちゃって。ちょっとハゲたね。
正直、のりおさんが弱音を吐いてるところって見たことがない気がしていて。事務所立ち上げって、クッソほど大変だと思うんですね。「さすがにこれ、心折れるかも」って思ったことはあります?
やっぱり積み重ねだと思ってて。辛いことがあっても毎回「まあ仕方ないな」って思いつつ、それがずっと積み重なって、5年ぐらい経ってからかな。「なんかもう限界だな」って思った時があって。
すべてを責任感で背負ってきたけど、もう無理だ、下ろしたい。誰かどうにか下ろす許可をくれ——みたいな状態で。たまきが5周年を迎えるちょっと前に、たまきの活動ものりお先生の活動も、辞めようと思った時があったのよ。
でも、全然そんな感じしませんでしたけどね。
表には出さないようにしてたね。その時に家族会議が開かれて。旦那様と実母と3人で話して、「申し訳ないけど、体もメンタルもやばくて、もう活動を続けられない。辞めようと思ってる」って話をしたの。
そしたら実母は「めちゃくちゃ頑張ってたから、もういいよ。ママも働きに出るし、いいんだよ」って。旦那様も「のりちゃんがもうダメなんだったら、俺が養うから。いくらでも休んで、もう二度と働けなくたっていいんだよ」って言ってくれて。
誰も責めないんですね……。
2人から了承が取れたので、辞めようと思ってて。辞めるにあたって、一番コラボしてくれた神楽めあちゃんには先に言おうと思って、電話したの。「めあちゃんごめん、5周年で僕、辞めようと思ってる」って話をしたら、めあちゃんもびっくりして。
本当に決めてたんですね、ほぼ全部。辞めるつもりで。
めあちゃんは「たまきちゃんが決めたことだから、私が『辞めないで』とは言えないけど……言えないけど、めあの気持ちを話すね」って。「たまきちゃんがいっぱいコラボに呼んでくれるから活動が楽しいし、こんなこと言うとプレッシャーかもだけど、たまきちゃんいないと私、活動何やっていいかわかんない」って言われて。
いやー……大きい存在だったんですね、本当に。改めて。
たまきにはデビュー当時から憧れの人が2人いて、神楽めあちゃんと鈴鹿詩子さんなの。デビュー前から憧れだっためあちゃんに「一緒に活動したいし、一緒に活動いなかったら何していいかわからない」なんて言われたら——やっぱ辞められないなって思っちゃって。
だからそれからは「めあちゃんさえいればいい」って方針に変えちゃって。あの時めあちゃんが留めてくれたから、このアフターストーリーが続いてるだけで、本当はあそこで物語は終わりだったから。もう神楽めあのダウンロードコンテンツよ、今やってるの。
DLCだったんだ、実は……。でも、それを聞いたら余計に、本当に良かったって思いますね。
「めあちゃんに『辞めないでほしい』って言われてからは、その場でパッと決めて」。実母は「来年もめあちゃんにお歳暮送れるのね」と喜んだそう。毎年のお歳暮は、この先も続いていく。
VTuber業界の玄関マット
そういう意味で言うと、今は結構、ある意味気楽に前より活動できてるところがあるんですかね。
そうだね。もう主軸がめあちゃんしか基本ないから。でも、めあちゃんと仲良く続けるためにも事務所は頑張らないといけないし、他のみんなへのサポートも必要だし。「VTuber業界みんなに優しく」は変わらずだね。
それだけやってると、業界への思い入れが、多分ありますよね。
さすがに「VTuber業界を牽引」って言ったら大きすぎるかもしれないけど、少なくとも貢献できてるなっていう自覚はあるので。すごく嬉しいのが、対談を見てくれた子たちに「たまきさんの対談から◯◯さんを推すようになって」って結構言ってもらえるから。
たまきと私の目標としては、VTuber業界の「玄関マット」になりたいなって思っていて。たまきから入ってきてくれて、いろんなところに散っていってほしい。自分のファンになってほしいじゃなくて、業界の誰かのファンになってほしいっていう。
玄関マットって、いい表現ですね。ゆくゆくはそれが嬉しい……めちゃくちゃわかります。
業界ってそうやって続いていくものだと思うし。他のタレントさんが大きなことをした時——それこそ星街すいせいちゃんが「武道館やります」みたいな時とか、自分のことみたいに嬉しくて。業界が認められた瞬間だから、「スイちゃんありがとう」って。もっとみんな、大きなことやってほしい。
案件ひとつ取っても、メーカーさんがVTuberさんに案件を振るなんて、昔は考えられなかったじゃないですか。
そう! 今コンビニに行ったら、絶対VTuberさんの何かしらのコラボやってるじゃない。あのおかげでどんどん広がっていくから——大手事務所に潰れられたら困るのよ。大手に来て、いいと思ったらいろんな事務所さんに行って、いいと思ったら個人勢に来るから。だんだん下に広がっていくから、頑張ってほしい。
全員で支え合うような気持ちで、ですね。手伝えることがあったら、サムネの一つや二つ作りますし。いろんな経験も共有したいなという気持ちは私もありますし、絶対のりお先生もあると思います。
2年越しの集大成『わんたま☆らいふ』
最後は宣伝タイム。「ちょっと大きいのがありそうですよね」と、れいが水を向ける。
最後に、ご自身で宣伝したいことを伺いたいんですけど。何か、ちょっと大きいのがありそうですよね。
そうなんです。実はですね、犬山たまきと一緒に2年ぐらいかけて準備したものがございまして。サイバーステップさんより『わんたま☆らいふ』——犬山たまきの修学旅行サバイバルが、なんと美少女ゲームになりました!
おめでとうございます! やりたい、やりたい!
ガイドライン的に実況プレイもできると思うので、コードもお渡ししますし、よかったらぜひやっていただきたい。主演は犬山たまきが本人役で出ておりまして、愛する神楽めあちゃんと、私も出ております。
これね、先ほどの「5周年ぐらいのタイミングで辞めようと思ってた」って話——あの辞めようと思った瞬間ぐらいに、この話が立ち上がってたのよ。
そうだったんですね……。
だから「辞めるんだったら、この話は断らなきゃな」って思ってたの。私もともと声優になりたかったから、これはやりたいなと思ったけど、活動を続ける自信もないし……って時に、「続けよう」ってなった瞬間に先方に「めあちゃん、ヒロインで出せますか」って聞いて。このゲームは、神楽めあと共に進んでいくダウンロードコンテンツだから。
それを踏まえてみると、めちゃくちゃエモく見えるんですけど……。
そうなの。2年前に辞めなかった集大成がこれで、もしかしたら出なかったかもしれないゲームだから。出たのはめあちゃんのおかげだし、皆さんには——もう、ゲームやらなくてもいいから買ってほしい(笑)。思い出の一作として。
のりプロに所属してくれてるイラストレーターの子たちがイラストを描いてくれたり、モブ声優としてのりプロの子たちやお友達のVTuberさんも参加してくれてるので。れいちゃんにも遊んでいただきたいなと思っております。
いや、遊ばせていただきます! ……思った以上にいろんな話が聞けて。まさか「辞めようと思ってた」なんて、少しも思わなかったので。
表ではそんな素振り、見せなかったしね。あんまり視聴者に心配かけたくないし、楽しいところだけね。
それも踏まえて、改めてプロだなと思いました。活動歴が長いのに、噛めば噛むほど味が出る……これからもよろしくお願いします!
『わんたま☆らいふ』は6月25日発売。「ちょっと良い時間が過ごせたよと感じてもらえたら、高評価・チャンネル登録・ハイプを」——生みの親と息子、二人がかりの第10夜は、こうして幕を下ろした。